肺塞栓症ガイドライン

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 肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)
予防ガイドライン-ダイジェスト版より

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リスク

中リスクでは弾性ストッキングの着用が推奨されています。

危険因子には「肥満」「高齢者」「下肢静脈瘤」などがあげられています。

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肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)の予防

静脈血栓塞栓症の予防方法

①早期歩行および積極的な運動

静脈血栓塞栓症の予防の基本である.歩行は下肢を積極的に動かすことにより下腿のポンプ機能を活性化させ,下肢への静脈うっ滞を減少させる415).早期離床が困難な患者では,下肢の挙上やマッサージ,自動的および他動的な足関節運動を実施する416)-418).

②弾性ストッキング

下肢を圧迫して静脈の総断面積を減少させることにより静脈の血流速度を増加させ,下肢への静脈うっ滞を減少させる419),420).他の予防法と比較して,出血などの合併症がなく,簡易で,値段も比較的安いという利点がある.中リスクの患者では静脈血栓塞栓症の有意な予防効果を認める一方,高リスク以上では単独使用での効果は弱い421).入院中は,術前術後を問わず,リスクが続く限り終日装着する.

③間欠的空気圧迫法

下肢に巻いたカフに機器を用いて空気を間欠的に送入して下肢をマッサージし,弾性ストッキングと同様に下肢静脈うっ滞を減少させる.高リスクでも有意に静脈血栓塞栓症の発生頻度を低下させ,特に出血の危険が高い場合に有用となる422),423).原則として,手術前,あるいは手術中より装着を開始し,少なくとも十分な歩行が可能となるまで施行する.止むを得ず手術後から装着する場合などで,使用開始時に深部静脈血栓の存在を否定できない場合には,十分なインフォームド・コンセントを取得して使用し,肺血栓塞栓症の発生に注意を払う424).安静臥床中は終日装着し,離床してからも十分な歩行が可能となるまでは,臥床時には装着を続ける.

④低用量未分画ヘパリン

8時間もしくは12時間ごとに未分画ヘパリン5,000単位を皮下注射する方法である.高リスクでは単独でも有効であるが,最高リスクでは理学的予防法と併用して使用する425),426).少なくとも十分な歩行が可能となるまで続ける.血栓形成の危険性が継続し長期予防が必要な場合には,ワルファリンに切り替えることを考慮する.施行開始時期はリスクによって異なる.モニタリングを必要とせず,簡便で安く安全な方法だが,出血のリスクを十分評価して使用する.特に,脊椎麻酔や硬膜外麻酔の前後では,出血の危険性を十分に評価した後その施行を決定すべきである.脊椎麻酔や硬膜外麻酔患者に未分画ヘパリン2,500単位を12時間ごとに皮下注射して,合併症なく静脈血栓塞栓症の予防が可能であったとする報告もある427).

⑤用量調節未分画ヘパリン

APTTを正常値上限に調節してより効果を確実にする
方法である.最初に約3,500単位の未分画ヘパリンを皮下注射し,投与4時間後のAPTTが目標値となるように, 8時間ごとに未分画ヘパリンを前回投与量±500単位で皮下注射する.煩雑な方法ではあるが,最高リスクでは単独使用でも効果がある428).

⑥ 用量調節ワルファリン
ワ ルファリンを内服し,PT-INRが目標値となるように調節する方法である.ワルファリン内服開始から効果の発現までに3~5日間を要するため,術前から投与を開始したり,投与開始初期には他の予防法を併用したりする.欧米ではPT-INR 2.0~3.0が推奨されているが,我が国の現状からはPT-INR 1.5~2.5が妥当と考えられる.モニタリングを必要とする欠点はあるが,最高リスクにも単独で効果があり,安価で経口薬という利点を有する429).